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対談企画 ?教育研究の成果を、共生に向けた諸問題の解決に資する社会連携?

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世界諸地域の言語?文化?社会に関する高い専門性と豊富な知的資源を、国内外で起きるさまざまな社会課題の解決へ向けて役立てていくことは、本学が担っている大きな使命。よりよい多文化共生のあり方を求め、社会実装への粘り強い取り組みを続けています。社会連携分野を担当する武田千香理事?副学長と、広報?社会連携課の三浦吉永課長が、本学の社会連携を語ります。

  • 武田 千香 理事?副学長(社会連携、学生支援等担当)(以下「武田」)
  • 三浦 吉永 広報?社会連携課長(以下「三浦」)

すぐそこにある危機への即応

武田 新型コロナウイルスのパンデミックがいくらか改善の兆しを見せ始めた頃に、今度はウクライナの領土で戦争が起きてしまいました。

三浦 ようやく国内外の出入りが自由になりかけた時でしたが、別次元の緊張を強いられました。

武田 戦乱や政変などを逃れて日本へ渡ってくる人たちを、どう受け入れるのか問われていたところへ、新たな戦争に追われ、多くの人たちが日本へも避難してきました。

三浦 本学では、まずロシア語の教員から、ロシア軍によるウクライナ侵攻に対する抗議声明があり、続けてロシア語を専攻する学生や卒業生に向けてのメッセージが出されました。年度が替わって4月に入ってからは、支援したいと考えている学生向けにウクライナ語講座が開講されました。

武田 社会との連携という点では、本学で身につけた語学力や世界の文化に関する専門性を社会に還元したいという卒業生や本学大学院生、そして教職員等に「言語文化サポーター」として登録していただく制度があります。その方々には、ボランティアなどその知見を生かせる活動の紹介を行っています。今回、彼ら向けにも、「生活支援のためのウクライナ語講座」を開いて、即戦力として活躍できる実践的な内容の講座を展開しましたが、それも国内における支援と言えそうです。国外向けとしては、ウクライナで日本語を学ぶ大学生延べ200名に、オンライン日本語講座の無料提供を行いました。これらの取り組みは本学の公開講座「オープンアカデミー」の枠組みを用いました。

三浦 避難民を受け入れた、あるいは受け入れようとしている自治体や法人向けに行った「緊急ウクライナ語講座」は、反響も大きく、さまざまなメディアで取り上げていただきました。こちらもオープンアカデミーの枠組みを活用しましたね。

切迫する重要課題への取り組み

武田 激変する国際情勢に即応していくことも大切ですが、国内における切迫した社会課題への取り組みもまた、緊急を要するものだと思います。日本語が母語でない在住者の割合が人口の2%を超える中、彼らが当事者となる事件や事故、紛争などが急増しています。

三浦 言葉が通じない土地で、いきなり取り調べや裁判を受けさせられることになったら、誰だってものすごく不安です。司法制度も、国によってまったく違いますし……。

武田 それぞれの場で、母語と日本語とを通訳する人が欠かせないのは当然です。「司法通訳人(者)」と言いますが、国家資格は存在せず、これまで十分なトレーニングの機会が確保されてこなかったため、技能などの質や、地位?待遇についての保証がありません。また、刑事事件であれば、利益相反にならないよう、警察と検察、裁判所という3つの段階それぞれで異なる通訳人が必要になるのに、人手が足りず、不十分な通訳しか行われない状況も生じています。

三浦 青山学院大学と一緒に取り組んでいる「司法通訳養成講座」は、そういった外国人たちの人権を守るための取り組みの一つですね。通訳人としての一般的な素養や、法律や司法制度の理解をはじめ、身につけておくべきことはたくさんありそうです。

武田 通訳技法や司法制度に関する専門知識のほか、言語や地域によって異なる文化や社会の相違などについてもふまえておかないと、間違ったニュアンスで相手に伝わってしまい、判決に大きな差異が出てしまうことも十分あり得ます。そういった総合的な内容のカリキュラムで1年間学んでもらうわけですが、本来は、国の資格として明確な制度化が必要だと思います。

三浦 これからは、大都市圏だけでなく、地方での需要も多くなるでしょうね。

武田 オンライン利用で遠隔地からでも対応できるようになるとよいですね。今年度は、ブラジルやミャンマーなど国外からの受講生もいます。近年の言語の種類としては、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語などの講座を行っていますが、ネパール語なども検討する必要があるかもしれません。

三浦 生存に関わるということでは、医療現場における通訳もやはり大切ですね。最近ですと、ヒンディー語やロシア語の医療通訳について相談され、個別に対応してきたことがあります。

武田 司法通訳人が人の運命を左右しかねない役割だとすれば、医療通訳のあり方は人の生命を左右しかねない役割と言えそうです。専門通訳の重要な領域として、本学の多言語多文化共生センター等でも積極的に取り組んでいくべきことだと捉えています。医療通訳については、民間企業との連携などで、費用の裏付けを得やすい面もありそうです。

三浦 逆に、司法通訳についてはそういった裏付けはなかなか得にくそうです。国内全体の状況として、こうした言葉に関わる問題は、なかなか正面から論議されない印象があります。

武田 東京オリンピック?パラリンピックの時なども、運営に関わるほとんどの人たちへ相応な報酬が支払われているのに、通訳だけは、大半を無償ボランティアが対応する形になっていました。これなども、言語を介する行為への認識が、著しく低いことの表れのように思われます。

言語につながる文化の違い

武田 異なる言語や文化のあいだというのは、必ずしも1対1の関係で置き換えられるものではありません。むしろ、一見すると対として置き換えやすそうな言葉でも、言語によっては、内容だけでなく、意味する次元や範囲が大きく異なる場合も多いのです。たとえば司法通訳の場合で、どのように笑ったかが焦点となったときに、それがどう訳されるかは大変重要です。「にこり」と笑うのと「にたり」と笑うのでは、大きく印象が変わってきます。ある言葉が、それぞれの言語において、どのようなニュアンスを含んだ使い方をされているかまでを把握しないと、その相手の行動について正確に伝えられず、相手も理解できないでしょう。

三浦 海外から来た人が国内で職務質問を受ける確率は、かなり高いと耳にしました。国内における一般的な風貌や服装とは異なる外見の人に対して、一定の予断や先入観が持たれているからですよね。それに加えて、日本語がほとんどできなければ、さらに何らかの疑いを強められてしまいそうです。

武田 同様のズレは、日常生活においてもいろいろあるでしょうね。たとえば、時間とかルールとかいったものは、どの地域においても同じように存在しているように思いがちです。けれど、捉え方や重点の置きどころなどが異なっていると、すぐに時間を守らないとか、モラルがないなどといった見方になりやすいものです。たとえば、何かの仕事で始まりの時間と終わりの時間が設定されているとして、仮に、ある国の人々の始まりの時間に対する感覚がまちまちだったりすると、日本人から見れば、あれは時間にルーズな人たちだ、という具合に映ってしまいます。でも彼らは、終わりの時間はぴったりと守る人たちかもしれず、他方、日本人は、すぐには終われず、だらだらと仕事を続けてしまいがちなのかもしれません。その場合、その国の人たちからすれば、日本人は時間にルーズということになってしまうわけです。ルールについても同様です。ルールをどのように捉えるかや社会でのその位置づけは、文化によって違うのです。

三浦 たしかに、「日本人は1分でも遅刻すると怒るけれど、1時間の残業はまったく気にしない」と海外の人から揶揄されますね。

武田 そういった、感覚や癖となるほどに習慣化し浸透している文化の違いを、互いに認め合いながら隣人として暮らしていくことは、必ずしも簡単なことではありません。けれど、そのような多言語/多文化が共生すべき時代を、日本国内においても、まさに迎えようとしています。その実現のためには、経験や慣れだけではない、言語や文化、そして社会の違いに関する学術的な知見に基づく専門的なアプローチを提供することで理解は深まります。私たちの社会貢献活動も、その支援のためにあるものだと思います。

TOPIC TUFSオープンアカデミー オンライン日本語講座

本学は、世界中から多くの留学生を受け入れ、高い水準の日本語教育を行ってきた、国内最大級の日本語教育機関でもあります。夏には短期間のショートステイプログラムなども実施し、広く海外の大学生に日本語プログラムを実施してきました。新型コロナウイルスのパンデミックで海外から留学生等の訪日が困難になったことをふまえ、オンラインであれば日本語学習を引き続き支援することができると、2021年度夏にオンライン日本語講座を開始。開始してみると、日本国内からの受講者も多く、国内でも日本語学習の機会を必要としている人が多いことが分かりました。

2022年度には、ウクライナで日本語学習を継続する大学生や、本学で受け入れているアフガニスタン元留学生の避難家族へ、講座を無料で提供しました。

将来を見据えた日本語教育

武田…情勢の変化に対応しながら、将来を見越し、より幅広い層のために積み上げていく社会連携の一つとして、日本語教育の支援活動があります。たとえば外国につながる子どもたちのための漢字教材の作成や、言語力を判定する指標づくりなどを、私たちは時間をかけて行ってきました。

三浦…日本語教育の支援は、一定の浸透や成果が見られるようになってきましたが、時代に応じたアップデートも求められますね。

武田…漢字教材については、これまでポルトガル語、タガログ語、スペイン語、ベトナム語のものを作成しました。各言語版のPDFをダウンロードしてもらう形で、世界中の方に使ってきていただいています。作ってからもう十数年経っていますが、いまでも月平均で1万ほどのダウンロード数があります。これからはもっと利便性を高め、スマホやタブレットでもっと手軽に利用してもらえるよう、漢字アプリの形で制作を進めているところです。

三浦…技術面では、電気通信大学発のベンチャー企業の協力を得て開発しています。利用環境を想定しながらのテストランを行っていますが、より多くの人に親しんでもらいたいですね。

武田…ダウンロード版では、海外からのアクセスもかなり多くありますから、むしろ国内の学校の枠組みで捉えない方が、あるいはよいのかもしれません。ゆくゆくは、学年別ではなく、教育漢字や常用漢字といった水準別にレベルを分けるような形もありそうです。

三浦…そうすれば、子どもたちだけでなく、国内外で日本語を学ぼうとする大人たちにとっても、なじみやすい教材になりそうですね。

武田…いろいろな取り組みをつなげながら、総合的な支援を行っていきましょう。

オープンアカデミーの広がり

武田…社会人向けの生涯学習的な教養講座として始まった本学の公開講座「TUFSオープンアカデミー」は、本学の社会連携活動を代表するものと言えますが、パンデミックによって、オンライン化を余儀なくされました。でも、そのことは、オープンアカデミーにとって、その可能性を大きく広げるきっかけになったような気がします。

三浦…先ほど挙げた、ウクライナについての支援活動の受け皿にもなりましたね。オンライン化によって、世界のどこにいても講義をしたり受講したりすることが可能になりました。オープンアカデミーはとても自由なものになったのではないでしょうか。

武田…2022年の夏は、新たな試みとして「親子で学ぶシリーズ」と題して小学生の親子向けに韓国語の1日講座を開講しましたが、すぐに定員いっぱいになるほどの人気でしたから、他の言語へも展開していければと考えています。全体としては語学講座が基本ですが、「世界の音楽」、「世界の歴史」、「言葉の歴史」といった教養講座や、対象者層を広げた特別講座など、新しいニーズに応えていくことも積極的に行いたいと考えています。

三浦…海外向けの日本語講座などは、時差もふまえて、朝晩の2回開講しています。双方向のやりとりもあるので、講師の負担も大きいわけですが、いろいろと工夫しながら、更なる広がりを持たせていきたいです。

TOPIC 「言語文化サポーター」等が協力 ほるぷ出版の『6カ国語のわくわく絵ずかん 学校のことば』

本学では、一定の言語能力がある本学卒業生、大学院生(正規留学生含む)、教職員等で組織し登録された「言語文化サポーター」による地域活動を通して、多文化共生を支えています。2022年3月現在、36言語、延べ383名が言語文化サポーターに登録しています。

2022年3月に刊行された『6カ国語のわくわく絵ずかん 学校のことば』(南北アメリカ?ヨーロッパ編、アジア編)では、翻訳などの業務に本学「言語文化サポーター」が協力しました。
統計によると、6歳から15歳までの在留外国人の数は、2021年5月現在で、およそ13万人です。このうち、公立学校に通う外国人児童?生徒も増えています。

今回本学が翻訳等に協力したこの絵ずかんは、学校でつかう道具や場所、さまざまな会話が、南北アメリカ?ヨーロッパ編では、ポルトガル語、英語、スペイン語、フランス語、ロシア語、ドイツ語で、アジア編では中国語(簡?繁体字)、朝鮮語、フィリピノ語、ベトナム語、インドネシア語で、収録されています。会話も子どもたちの目線で語られているため、日本語を母語としない児童のみならず、日本語を母語とする話者にとっても開いて読めばそのままコミュニケーションできるように工夫されています。

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